酒気帯び運転(飲酒運転)事故と罰則について
法改正・規制

- 昨今飲酒運転による死傷事故によりその危険性はますます注目され、飲酒運転に対する世間の目は厳しくなっていることもあり、運送業界としても飲酒運転の防止の取組に力が入れられています。
重大事故を受けた新たな安全対策が策定されたこと、自動車の先進安全技術の普及が進みつつあること、自動車事故をめぐる状況変化などの動向を踏まえ、平成21年3月に公表された「事業用自動車総合安全プラン2009」が改定され、平成29年6月に「事業用自動車総合安全プラン2020」が公表されました。
しかし「平成30年までに死者数及び事故件数を半減、飲酒運転ゼロ、危険ドラッグ等薬物使用による運行の絶無」を目標に掲げ「事業用自動車総合安全プラン2009」が公表された平成21年3月から10年以上が経過しましたが、いまだに飲酒事故はなくなっていません。
残念ながら、平成31年/令和元年の飲酒運転による事業用自動車の交通事故は57件と、「事業用自動車総合安全プラン2020」の策定以降で最多となりました。
さらに、令和2年5月15日時点(速報ベース)で、国土交通省への報告が求められる重大事故が昨年同時期を上回る13件発生しています。
今回は最新の事業用自動車運転者による飲酒事故の動向と罰則についてご紹介します。
飲酒運転による事業用自動車運転者の事故件数の状況(2020年5月時点)
平成20年から平成31年/令和元年までの12年間の飲酒運転による事故件数は下記表の通りです。
飲酒運転による事業用自動車の交通事故は、平成24年以降は横ばい傾向ですが、平成31年/令和元年は57件発生し、前年40件に比べて17件増加しました。
平成31年/令和元年に発生した飲酒運転による事故のうち、トラックによる事故が48件(前年比14件増)・タクシーによる事故が8件(前年比2件増)発生しています。
事業用自動車運転者の飲酒運転による事故件数
0 |
H20 |
H21 |
H22 |
H23 |
H24 |
H25 |
H26 |
H27 |
H28 |
H29 |
H30 |
H31/ R1 |
バス |
1 |
1 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
ハイヤー・タクシー |
18 |
14
| 14 |
8 |
7 |
11 |
7 |
4 |
6 |
4 |
6 |
8 |
トラック |
80 |
69
| 56 |
55 |
39 |
40 |
42 |
49 |
48 |
41 |
34 |
48 |
全業態 |
99 |
84
| 71 |
64 |
46 |
51 |
49 |
53 |
54 |
45 |
40 |
57 |
※青森県トラック協会 飲酒運転による事業用自動車事故の推移より抜粋
「事業用自動車総合安全プラン2009」公表から12年が経過しても未だに飲酒運転ゼロは厳しい状況です。
安全管理が不十分な事業者において社会的影響の大きい死亡事故も発生しています。
そもそも運送業界はドライバーに対し運転前のアルコールチェックが義務付けられており、飲酒運転は避けられるはずなのですがなぜこのようなことが起こるのでしょうか。
事故を起こした事業所では、遠隔での休息中や点呼後の乗務中に飲酒が行われていたという話もあります。
飲酒運転ゼロを達成するには、点呼時のアルコールチェックだけではなく、乗務中のアルコールチェックなどが必要となる時代が来るかもしれません。
飲酒運転の罰則規定(2019年10月時点)
一口に飲酒運転といっても、2つに分類されている事はご存知でしょうか。それが「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」です。
この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
酒気帯び運転は「呼気中にアルコール濃度が道路交通法における基準値の0.15mg/Lを超えている状態で運転をしていた場合」の違反になります。
さらに酒気帯び運転の中でも2段階に分かれており、呼気のアルコール値が「0.15mg/L以上0.25mg/L未満」と「0.25mg/L以上」の状態があり、たくさん飲酒している後者の方がもちろん罰則は重くなります。
それならば0.15mg/L未満なら大丈夫なのかと言うと、そういうわけではありません。
基準値の0.15mg/L未満でもアルコールが原因で正常に運転が出来ない状態とみなされた場合、酒酔い運転とされることがあります。
加えて運送事業の場合、運転者に対して点呼時に「酒気帯びの有無」を確認することが義務付けられていますが、この酒気帯びの状態はアルコール濃度が0.15mg/L未満であるか否かを問わないものとなっています。
つまり、運転者のアルコール濃度が微量でも検知された時は、運行管理者はその運転者に乗務をさせてはいけないということになります。
運転者に対する罰則
0 |
アルコール濃度 |
違反点数 |
免許証 |
罰則 |
酒気帯び運転 |
0.15mg/ℓ以上かつ0.25未満 |
13点 |
免許停止 |
3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
酒気帯び運転 |
0.25mg/以上 |
25点 |
免許取り消し (欠格期間2年) |
3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
酒酔い運転 |
0 |
35点 |
免許取り消し (欠格期間3年) |
5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
※「全日本トラック協会-飲酒運転防止対策マニュアル」より抜粋
雇用している運転者が飲酒運転をした場合、その事業所にも罰則があります。
酒酔い・飲酒運転があった場合、初違反なら100日車の車両使用停止、再違反なら200日車の車両使用停止となります。
加えて事業者が飲酒運転を下命・容認していた場合や指導監督義務に違反した場合は、該当日数の事業停止処分を受けます。
事業者に対する行政処分
0 |
行政処分 |
事業者が飲酒運転等を下命・容認した場合 |
14日間の事業停止 |
飲酒運転等を伴う重大事故があり事業者が指導監督義務に違反していた場合 |
7日間の事業停止 |
飲酒運転等に関わる道路交通法通知等があり事業者が指導監督義務に違反していた場合 |
3日間の事業停止 |
酒酔い・酒気帯び乗務があった場合 |
初違反:100日車の車両使用停止
再違反:200日車の車両使用停止 |
※「全日本トラック協会-飲酒運転防止対策マニュアル」より抜粋
また、飲酒運転をする恐れがある人物に対して、車を貸す・酒類を提供する・飲酒運転を勧めるなど、実際に飲酒運転をしていなくても、道路交通法違反となり刑罰を受ける可能性があります。
【車両提供罪】
道路交通法第65条の2による違反態様です。
お酒を飲んでいる人に車のキーを渡すなど、酒気を帯びた状態であることを知った上で車の使用を許可するなどの行為です。自己名義以外の車両であっても罪に問われます。
- ドライバーが酒気帯び運転の場合…3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- ドライバーが酒酔い運転の場合……5年以下の懲役または100万円以下の罰金
※共栄火災海上保険「自動車防災情報」より抜粋
【酒類提供罪】
道路交通法第65条の3による違反態様です。
飲酒運転をするおそれのある運転手に対して、酒類を提供する・酒類を勧めるなどの行為です。酒類の提供を受けた運転手が飲酒運転を犯して検挙された場合、酒類の提供者は次のとおり処罰を受けます。
- ドライバーが酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
- ドライバーが酒酔い運転の場合……3年以下の懲役または50万円以下の罰金
※共栄火災海上保険「自動車防災情報」より抜粋
【同乗罪】
道路交通法第65条の4による違反態様です。
運転手が酒気を帯びていることを知りながら、自己の運送を要求・依頼して飲酒運転の車両に同乗するなどの行為です。なお、運行中のバスやタクシーなど、旅客自動車運送事業に従事中の車に同乗した場合、同乗罪は適用されません。
- ドライバーが酒気帯び運転の場合…2年以下の懲役または30万円以下の罰金
- ドライバーが酒酔い運転の場合……3年以下の懲役または50万円以下の罰金
※共栄火災海上保険「自動車防災情報」より抜粋
酒類提供店・同乗者・運転免許を持っていない方達も取り締まりを受ける可能性があります。
「自分は飲酒運転しないから大丈夫」と安心せずに、飲酒運転ゼロを目指して意識的に行動しましょう。