深刻化するトラックドライバー不足の対策は?運送業界が抱える課題とは|IT点呼キーパー

深刻化するトラックドライバー不足の対策は?運送業界が抱える課題とは

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  • 少子高齢化に歯止めがかからない日本。運送業界もトラックドライバーの高齢化が進み、現役を退いた人の穴を若い力で補えず、人材不足が慢性化しています。


    物流は、電気や水などと同じレベルで人々の生活を支えるライフラインであり、衰退させてはいけない業界です。


    「それはわかっているけど、実際どうしたらいいの?」


    このようにお悩みの事業者の方もいるのではないでしょうか。


    そこでこの記事では、トラックドライバーの高齢化が運送業界にもたらす問題とドライバー不足の要因、改善策を解説します。

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トラックドライバー高齢化の現状に伴い運送業界が抱える課題

まず、トラック業界の現状をご紹介します。


全日本トラック協会発行の「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023」によると、令和4年において、トラック運送事業で自動車運転者として業務に就く人は約86万人とここ数年は横ばいで推移しています。


次に、道路貨物運送業の年齢別構成比から、トラック運転者は全体の約76%が40歳以上と高齢化が顕著となっていることが確認できるでしょう。


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【出典】:日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023|全日本トラック協会(参照2023-10-03)


若い世代が増えず、高齢世代は徐々に現役を退くため、運送業界が抱える諸問題の中でもドライバー不足が引き続き最も深刻な課題といえます。

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トラックドライバーの有効求人倍率

有効求人倍率の推移からも、ドライバー不足の深刻さが伺えます。有効求人倍率とは、有効求職者数に対する有効求人数の割合です。有効求人倍率は以下の式で求められます。


「有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数」


一般的に、求職者は仕事を探す労働者、求人は人を探す企業を指します。有効求人倍率が1を上回ると、実際の労働者より労働者を求める企業の方が多いことを意味します。つまり、人手が足りていないということです。


トラックドライバーの有効求人倍率はピーク時に比べて落ちつきましたが、全職業平均の2倍弱ほどで推移を続けており、依然として深刻な人手不足が続いています。

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【出典】:自動車運転者の等時間労働改善に向けたポータルサイト|厚生労働省(参照2023-10-03)

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トラックドライバー不足の要因

問題解決には、原因の洗い出しが必要です。ここでは、トラックドライバーが慢性的に不足している要因を紹介します。

賃金や労働時間などの労働条件

トラックドライバー不足の要因の1つ目は、労働条件の悪さです。トラックドライバーはほかの業種に比べ、労働時間が2割長いにもかかわらず賃金が1割低いといわれています。


全日本トラック協会発行の「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023」に掲載されているトラックドライバーの賃金、労働時間の推移からもトラックドライバーの待遇は他産業に比べて低水準なのがわかります。


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【出典】:自動車運転者の等時間労働改善に向けたポータルサイト|厚生労働省(参照2023-10-03)


長時間働いても稼げず、それでいて仕事内容は肉体的負担が大きいため、トラックドライバーに魅力を感じるわけがありません。最低限、他産業と同水準まで労働条件を向上させないと、ドライバー不足解消は難しいです。

トラックドライバーの高齢化

トラックドライバー不足の要因の2つ目は、高齢化です。人間は歳を重ねる生き物ですから、ある集合体の平均年齢が上がるのは当然です。

しかしながら、本来であれば通常は集合体から高齢者が抜け、若年層が入って規模を維持しながら平均年齢の上昇を抑えますが、トラックドライバーという集合体ではこれができていません。


運送会社には労働条件の悪さから若年層が入ってきにくいので、高齢者が抜けてしまうと会社を維持できないのです。高齢者がドライバーを続けざるを得ず平均年齢が上がる、すなわち高齢化が進んでしまうわけです。

配達需要の増加

トラックドライバー不足の要因の3つ目は、配達需要の増加です。配達需要増加の背景には、ECサイト利用者の拡大があります。


国土交通省発行の「令和3年度宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」によると、トラックによる配送個数は平成の30年間で約4.3倍に伸びているのです。

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【出典】:令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法|国土交通省(参照2023-10-03)


高齢消費者の増加や、令和に入ってからは新型コロナウィルス感染症の影響もあって配達需要は伸び続けています。

運転免許証制度の改正

トラックドライバー不足の要因の4つ目は、運転免許制度の改正です。未熟な運転者による事故を減らすため、法改正で運転可能な車種と取得年齢を細分化したことにより、若年層では運送会社が保有するトラックを運転できないケースが増えています。


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【出典】:免許の種類と運転可能な車両区分|全日本トラック協会(参照2023-10-03)


高い費用を払って新しい免許を取得してまでトラック業界に就職しようと考える人は少なく、自分には無理とわかった時点で諦めてしまう人も多いです。


ただでさえトラックドライバーを志す若年層が少ないのに、免許による制限でさらに即戦力が減ってしまい、ドライバーの育成費用や教育者を育てる時間を確保できない運送会社は、より苦しい状況に追い込まれています。

女性雇用の遅れ

トラックドライバー不足の要因の5つ目は、女性雇用の遅れです。


トラックドライバーは、車の運転だけでなく、荷物の積み降ろしも行います。重い荷物を手積み手降ろしすることも多く、力が弱い女性には務まらないと、女性の採用に消極的な会社はまだまだ多いです。


また、会社内が整理整頓されていない、トラックが古く汚いなど、清潔感の低さも女性就業者が増えない理由の1つといえます。国土交通省が発行する「若年層・女性ドライバー就労育成・定着化に関するガイドライン」によると、女性は働くうえで「職場の雰囲気や環境」を収入に並んで重視していることがわかります。


近年、ドライバーの高齢化により力作業ができる人の数が減ってきました。男性の力だけを求めることに限界を感じた会社が、


  • パレット輸送やパワーゲート車を使った荷役へのシフト
  • 社内美化の強化
  • 積極的なトラックの入れ替え

など、女性が働きやすいと感じる職場づくりに力を入れた結果、応募者に対する女性割合は徐々に増加していますが、他産業に比べまだまだ発展途上です。

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トラックドライバー不足に対する改善策

トラックドライバー不足の要因が明確になると、「ではどのように改善すればよいのか?」という疑問が生じます。ここでは、トラックドライバー不足に対する改善策をご紹介します。

賃金や労働時間などの労働条件

トラックドライバー不足に対する改善策の1つ目は、労働条件の改善です。


既存の従業員を減らさず、若年層や女性を取り込むためには、他産業より1~2時間長い労働時間や1~2割少ない賃金の対応から女性が働きやすい清潔な職場づくりなど労働条件の改善が必須です。


労働条件の改善に向けて、国土交通省は平成30年に貨物自動車運送事業法を改正しました。主な改正内容は以下の4点です。


規制の適正化

規制の適正化として、以下の内容が改正されました。


①欠格期間を延長し、法令に違反した者等の参入を厳格化(貨物自動車運送事業法第5条に記載)

  • 欠格期間が2年から5年に延長
  • 処分逃れの自主廃業をした者の参入制限

②約款の認可基準の明確化

  • 原則として運賃(運送の対価)と料金(運送以外のサービス等)を分別して収受する

事業者が遵守すべき事項の明確化

事業者が遵守すべき事項として、以下の内容が改正されました。


①輸送の安全に係る義務の明確化

  • 事業用自動車の定期的な点検・整備の実施等

②事業の的確な遂行のための遵守義務の新設

  • 車庫の整備・管理
  • 納付義務を負う保険料等の納付

荷主対策の深度化

過労運転、過積載等の問題はトラック事業者の努力だけでは改善が困難なため、荷主企業の理解・協力が必要として以下の改正を実施しています。


  1. 荷主の配慮義務の新設
  2. 荷主勧告制度(既存)の強化
  3. 国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定の新設

標準的な運賃の告示制度の導入

運送業者の荷主との交渉力の弱さを考慮し、持続的に事業を行うための参考運賃の告示を国土交通大臣が行えるようになりました。


なお、国土交通大臣による荷主への働きかけ等の規定と標準的な運賃の告示制度は、令和5年度末までの時限措置でしたが、令和5年の貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律の施行により、当分の間継続されることになりました。

高齢者ドライバーの活用

トラックドライバー不足に対する改善策の2つ目は、高齢者ドライバーの活用です。若い労働力によってドライバー不足を解消するには時間がかかるため、高齢者ドライバーの活用が積極的に検討されています。


高齢者ドライバー活用のメリット

  • 豊富な経験と高い技能で即戦力になる
  • 若年層へ技能・知識を継承できる

高齢者ドライバー活用のデメリット

  • 安全面、健康面管理の厳重化
  • メンタルケアの必要性(賃金低下によるモチベーションの低下など)

現役世代と同水準の待遇を用意できない企業は、高年齢雇用継続給付などの公的給付もあわせて活用していく必要があるでしょう。

DXの導入による配送業務の効率化

トラックドライバー不足に対する改善策の3つ目は、DX導入による配送業務の効率化です。


DXとは?

DXとは、デジタルトランスフォーメーションのことであり、精度が高いデータと最新のデジタル技術を活用し、企業の変革、新たな価値創出や競争力向上を目指すことを指します。


具体的には、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのIT技術を使って、配送の最適化、自動化を行い、生産性アップを目指します。

配送マッチングサービスの活用

トラックドライバー不足に対する改善策の4つ目は、配送マッチングサービスの活用です。


配送マッチングサービスとは?

インターネットやスマホで得られる情報(主にGPS)から、配送を必要としている荷主と空車のトラックなどを効率的に引き合わせるサービス。荷主と運送事業者で取引が成立した場合、運送料の一部を手数料として徴収するモデルが一般的。


配送マッチングサービスはウーバーイーツの物流版ともいわれ、物流の効率化を目指すシステムとして注目されています。送る側は急な配送依頼でも運送業者が見つかりやすい、運ぶ側は帰路につく空車や待機中の車、個人事業主の車などを有効活用し、収益増が期待できるメリットがあります。


運送事業者は繁忙期に向けた一時的な増車や急な配送に自社の車で対応できない場合などに活用することで、荷主のニーズに応え新たな案件獲得のきっかけにできます。

荷役作業の業務改善

トラックドライバー不足に対する改善策の5つ目は、荷役作業の業務改善です。ドライバー人口が増えない、安定しない原因の1つに荷役作業の負担があります。具体的には、手作業による荷物の積み降ろしがきついことです。


改善策には、


  • パレット輸送・パワーゲート輸送の導入・拡大
  • 荷役作業の機械化、自動化

などが挙げられるでしょう。


高齢者や女性に、「これなら自分にもできる」と思ってもらえれば、ドライバー人口が増える可能性は大きく上がります。

在庫拠点を増やし分散

トラックドライバー不足に対する改善策の6つ目は、在庫拠点の分散です。イメージとしては、営業所、倉庫などを増やすといった改善策です。拠点が増えると拠点間の距離が近くなるため、長距離輸送が減少し、業務が効率的になります。


長時間労働の抑制は、コストの減少、2024年問題(年間960時間未満とする時間外労働の上限規制)に対応できるなど、働き方改革関連法に沿った経営にもつながります。ほかにも、災害の発生で道路網が寸断されても、止まる荷量が少なく済む点も見逃せません。


一方で、拠点の運営費や拠点に業務を振り分ける作業が増加するなどのデメリットがあることを把握し、対応策を練っておく必要はあるでしょう。

広報活動に注力

トラックドライバー不足に対する改善策の7つ目は、広報活動への注力です。待遇と労働条件が他産業と比較して不利な運送業界。どうしても魅力が少なくなってしまうため、募集広告をやみくもに出しても簡単に人は集まりません。


そこで、自社サイトやSNSを使って情報発信をしましょう。ポイントは、自社の魅力だけでなく、トラック業界の動向も発信することです。トラック業界全体が活気づかないと、たとえ自社に人が集まっても業績は伸びません。


物流は人々の生活を支える土台です。物流の大切さを発信し、自分に密接な関係があることをできるだけ多くの人に理解してもらえる広報活動を行いましょう。

まとめ:トラックドライバー不足の要因を知って、改善を図ろう!

物流業界が抱える課題と改善策についてご紹介しました。


  • 運送業界が抱える最大の課題はトラックドライバー不足
  • 原因は他産業に比べて低水準の労働環境
  • 最も効果的な対策は労働条件の向上

劇的に改善できる特効薬的要素はありません。物事は何事も小さな努力の積み重ねによって変化が生じます。


物流は、電気や水道などと同様に重要度が高いです。未来の物流を守るため、少しずつでも若年層のドライバー人口を増やし、世代交代実現に向けた取り組みを積極的に実施しましょう。


【出典】
日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023|全日本トラック協会(参照2023-10-03)
自動車運転者の等時間労働改善に向けたポータルサイト|厚生労働省(参照2023-10-03)
令和3年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法|国土交通省(参照2023-10-03)
免許の種類と運転可能な車両区分|全日本トラック協会(参照2023-10-03)
物流の2024年問題とは?具体的な影響から対応策まで解説|船井総研ロジ株式会社(参照2023-10-03)
貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(議員立法)の概要|国土交通省(参照2023-10-03)

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